私は以前就いていた仕事を辞めた。理由は親が辞めろと言ったから。実際危険な仕事だったので 心配されただけなのだろうが、真に受けて信用して甘えてしまった自分も馬鹿だったと後悔している。

仕事を辞めたら、家賃生活費その他一切の面倒を見ると言われたので、それからまた仕事をせず、家から出ないで過ごすようになった。
その頃は、実家から何駅か離れた家に住んでいたが、拒食症を患って、実家近くのマンションに引っ越しをさせられてからは、徒歩圏内のため、以前にも増して 食料を頻繁に届けて来るようになり、冬場の寒い日は 手作りの料理も持ってきて、インターフォンにも出ない私のために、屋外の専用ボックスに入れておき、入れたものを私が回収して なくなっていることで、安否確認も兼ねているようである。

私は寝たきりで過ごすことも多いため、また連絡手段がPCメールのみなので、PC画面を見ないまま メールが入っていることに気付かず、たまに数日回収せぬままになると、たぶん合鍵をつくっているのだろう、勝手に部屋に入ってくるから怖い。
そうして親名義の賃貸マンションに住み、母からは食糧、父からは生活費だけを得て、口座に父が振り込む生活費を、インターネットバンキングで管理して、何年も生き永らえている。

もし私が親ならば、こんな子のためにならぬ状態で放置など、絶対しないであろう。まだ実家にいた十代のころから、社会と繋げるために、いろいろな手段を与えるだろう。それをしないから、どんどん人との接点がなくなっていき、今では外を歩くだけで、不審者扱いされ、警察に補導され、親を呼び出されるため、外を出歩くことも出来ない。

恐ろしいのは、定期的にやってくる、賃貸マンションの更新日である。今時書面で届くので煩わしい。名義は親のため、私だけではいかんともしがたいのに、この書類を表のボックスに入れて置くと、親はいつも怒り、解約するとごねるのだ。
毎回の更新のたびにそうなるから、気づかれないように、食事の入っていた保冷バッグのなかに忍ばせて気づかれないように持っていかせたら、かえって逆鱗に触れたようで、それが人にものを頼む態度かと 説教のメールが来る。
始めの約束はどうしたのか。一切の面倒を見るからと仕事を辞めてずっと飼われているのに、私の失った将来、自立することで得られたであろう自由な生活、あたりまえの成人として生きていくことを奪われ、毎日 この、未来のない、いつ絶えるとも知れない、いつ怒鳴り込んで 身を脅かされるともしれない 刻一刻の恐ろしい時間の連続、絶望のなかで すべなく生きることしかできないでいる。

つい先日来た書類も、契約者は親であるのに、自分一人でこれからは何とかしてくれ、などと 子供みたいなわけのわからないことをごねて、不機嫌なまま、書類を真っ白のまま突き返し、私に記入・捺印・返送をするように言う。
しかたないので、屋外に放置して雨ざらしになっていたのを、再び回収して、何とか記入し、まだ寒い夜の街に 寝間着のまま ふらふらと歩いて出て行き、ポストに投函してきた。
銀行印など、普段つかわないから、朱肉も干からびてしまっており、まだ生きているシャチハタのインクをつかって なんとか捺印したが、不鮮明なうえ、どうせ入居者である私のサインだけでは、更新もできないだろうに、そんなことも分からないらしい。